やや奥まった住宅地でひと際目を引く、金属外壁の青い家。
光を反射するブルーの外壁と玄関まわりの板張りのコントラストが、どこかクールな印象です。
インターホンを鳴らすと、ご主人と奥様おふたり一緒に出迎えてくださいました。
実はこの家、ご主人が自ら間取りを考えました。
-谷川さん、内心「自分の仕事ないやん!」とか思いませんでした?
谷川 :思いましたよ、当初は。「それが自分の仕事だ」って。建築士としての自負もありましたし。だけど、ご主人と話をするうちに「それはただのエゴなんだ」って思うようになりました。
ご主人:もちろん、構造とか耐震のことは分からないので、そこはプロに任せましたけれど。
最終的に、谷川さんが性能の部分をしっかり担保しつつ、ご主人の間取りで家を建てることになりました。
-でも、結構よく考えられた間取りですよね。
谷川 :そうなんですよ。私がいいと思っている間取りは、私の仕事の経験で培ったもの。お施主さんがいいと思う間取りは、その方の今までの暮らしや価値観が生かされたものなんです。
その意図を読み取って、きちんと対話しながら進めていくことで、ぼく自身の引き出しも増えていくと思っています。
-ちなみに、ほかの会社にも相談には行かれましたか?
ご主人:行きましたね。ハウスメーカーも何社か行ったんですが、ここ敷地が奥行きのある長方形なので、ハウスメーカーでは難しいようでした。玄関の配置とかも、こっちの思いとは違ってましたし。
-それで、ご自分で間取りをつくろうと思われたんですね。
ご主人:あと、ハウスメーカーによって冷暖房のこだわりとかもあるから、「なんか違うかな」って。その点、谷川建設は気密にもこだわってるし、エアコンだけで十分暖かいっていうのが気に入りました。
-住んでみて、実際どうでしたか?
ご主人:全然違う。寒さとか、エアコンつけたときの暖まり具合が全然違いますね。
谷川 :夏はどうでした?
ご主人:夏は、朝ちょっとエアコンつけたら、日中はエアコンなしでも大丈夫でした。
-え、すごい!
ご主人:いや、ほんま。谷川くんね、この男、結構やるんよ(笑)
-めっちゃ褒められてますよ(笑)ところで、この家、外から見ると平屋っぽいんですが、実際はロフト付き?
ご主人:ロフトっていうか、一部屋だけの2階建てになりました。ちゃんと階段で上り下りできるようにしたかったので。
谷川 :しっかりお部屋として使いたいとの事でしたので、天井高もちょっと高くして部屋として作りました。
間取りのほかにもうひとつ、ご主人がこだわったのが自然素材。リビングの木製サッシに杉の天井、壁には漆喰……。
-もともと自然素材が好きだったんですか?
ご主人:というより、壁紙を貼る必要性を感じなかったです。壁紙って、また剥がして、貼り替えてってできるけど、多分貼り替えることもないし。じゃあ、塗ればいいやんって。
谷川 :私たちとは違うアプローチから、こういう漆喰とか自然素材に行きついてるんですよね。
ご主人:はい。だから、自然素材の機能性とかは後からついてきた感じです。
ほかにも、インテリアには様々なこだわりがみられました。
まず目についたのは、LDKと和室を隔てる襖。ガラスと木目のパネルが互い違いに、市松模様を描いています。
谷川:これ既製品なんですけど、もともと違う並びだったものを、ご主人から「千鳥パターンにできんかな」って言われまして。
メーカーに相談したら「出来ないことはない」との事で。「できるみたいですが、金額上がったらどうします?」って。
ご主人:結局、値段変わらなかったけどね(笑)
谷川 :ガラスと板を入れ替えるだけだったので。良かったです(笑)
この家はもともと、ご主人のご実家(母屋)の隣にあった別棟を建て替えたもの。
旧宅の和室にあった欄間は、今の和室の壁の装飾に。和室の鴨居やキッチンカウンターの天板にも古材が使用されています。
さまざまな色と柄が入り混じった内装や照明器具も、1つひとつお施主様がこだわって選んだもの。ご自身も一緒にペンキを塗ったり、室内用の窓を自作されたりと、毎日のように現場へ足を運んで、家づくりを一緒に楽しんでいらっしゃいました。
谷川 :外構にも、いろいろ装飾が増えてますね。
-すごい器用ですよね。もともとDIYが趣味なんですか?
ご主人:まぁ…暇なんで(笑)
谷川 :そんなおじいちゃんみたいなこと言わんでください(笑)
-外観は、もとからこういうイメージがあったんですか?
ご主人:とりあえず青のガルバがいいなと思ってて。「倉庫っぽい感じになりますよ」っていわれたけど、それでいいよって。
谷川 :「玄関まわりとか軒天を板張りにするとかっこいいんじゃないですか?」と、そこは提案させてもらいました。
-いや、ホントに。すごいかっこいいですよ。最初見たとき、思わず「あ、かっこいい」って言っちゃいましたもん。
ご主人:かっこよくても誰も通らんしな、こんなとこ(笑)
谷川 :展示場じゃないんで、自分たちが満足してたらいいんです(笑)
-ちなみに、ご自身で考えた間取り、あと外観とか性能的なことも含めて、この家は何点ですか?
ご主人:それ、いい点数いうとかなあかんのやろ?(笑)
谷川 :10点とかいわれたら悲しいですね(笑)
-じゃあ、質問変えますね。「ここ、もう少しこうしたらよかったな」っていうところ、ありますか?
ご主人:特に無いですね、それが。なんかある?
奥様 :インターホンのモニターを玄関の近くにすればよかったかな。リビングにいるとき、キッチンまで行ってインターホン出て、また玄関まで戻らなきゃいけないんで……。
ご主人:そんなん、子機買ったらええ話やけどな。
-でも、その程度しかないってことですよね。これ、ほぼ100点では?
「収納がいっぱいほしい」ではなく、「収納が足りなければ足せばいい」。暮らし方を決めてしまうのではなく、暮らしに合わせて住まい方を変えればいい。
そんなご夫婦の考え方は、「可能性を残して計画する」谷川さんの考え方とも似通っています。
『余白』や『遊び』を残しているからこそ、住み始めてからも不満を感じにくいのかもしれません。
「お知り合いで家を建てたいという人がいたら、谷川建設さんを紹介しますか?」という最後の質問に対し、間髪おかず「する」と答えたご主人。
妥協を許さない、実直なお施主様だっただけに、谷川さんもとてもうれしそう。
インタビューが終わり外へ出ると、奥様が「これ、どうぞ」と缶コーヒーを手渡してくださいました。
口数は少ないものの、終始にこにこしながらご主人のお話を聞いていらっしゃった奥様。
帰り際に庭の一角を指して「あのヤシの木……」と。
「素敵ですよね。家の外観とも調和していて。あとから植えられたんですか?」と質問すると、「最初からあったんです。みんな、すごく褒めてくれる」と、うれしそうに。
奥様のいちばんのお気に入りは、青いガルバを背景にした、あのヤシの木だったのでしょうか?