本日おじゃましたのは、神楽町1丁目にあるコーヒーとケーキのお店【tuzu】。
赤髪のオーナーはもともとフリーペーパーの営業をされており、谷川建設とはそこからのお付き合いなのだとか。
ある日突然「独立して店出すからヨロシク」と改装の依頼を受けたのが、呉竹町に住居兼店舗としてオープンしたコーヒーと雑貨のお店【coto】。
それから4年後の2021年。「姉妹店を出すからヨロシク」と、再び店舗改装の依頼が舞い込みました。
-まず、cotoとtuzuの店名の由来を教えてもらってもいいですか?
オーナー:cotoは、コトコトのコト。コトコトって、丁寧じゃないと出てこない擬音なんです。おなべを煮るときとか。雑貨屋なんで、丁寧に生きる。「丁寧」=「コトコト」でcoto。
これが対外的な由来。
-「対外的」がちょっと気になりますが。tuzuは?
オーナー:tuzuは「綴る」。思い出を綴る、記憶を綴る、人間関係を綴る、です。
-素敵ですね。
オーナー:表向きはね。
-表向き(笑)とりあえず、本題に入りましょう。
tuzuは“若い女性向けにおっさんふたりが「かわいい」を模索した結果”という触れ込みですが、「女性向けのお店だし、女性設計士がいるところにお願いしよう!」とは、ならなかった?
(ふたり顔を見合わせて)
オーナー:仲良くさせてもらってる女性の設計士さんもいますが、ならなかったです。
-迷わず?
オーナー:迷わずでしたね。建築屋の知り合いはいっぱいいるんですが、彼が一番ぼくの性格わかってくれてるし、ぼくが面倒くさい人間やってことも理解してくれてるので。
-で、おじさんふたりで試行錯誤しながら。
谷川:「これ、かわいい?」「うん、多分かわいいと思う」って、ふたりで。
オーナー:30後半と40前半のおっさんが、一生懸命「かわいいとは?」を考えたね。
-あまり想像したくないシチュエーションですね。「こういう雰囲気にしたい」っていうイメージは、最初からあったんですか?
オーナー:ピンクは入れたかった。ピンクは決まるの早かったね。
谷川:うん、ピンクは早い段階からオーダーきてましたね。
-cotoはもう少し落ち着いた感じでしたよね。それよりも、もう少し女性的なイメージでピンク?
オーナー:そうです。もともと壁も白かったから、ピンクと相性よさそうでしたし。
谷川:あまり大きく手を加えない、もとの形を受け入れながらの設計だったので。あと、アクセントで真鍮の棒が所々に入ってます。
-え?あの光ってるの、真鍮なんですか?
谷川:誰も気付いてくれないんですが、私の勝手なこだわりです(笑)
-キラキラしてるな、とは思ってたけど。隙間から光がもれてるのかと思ってました(笑)板を斜めに張ったのは?
谷川:それも私の提案です。いろんなパターン考えたけど、最終的に斜めになりました。板の厚みを変えて奥行き感を出して。真っすぐじゃなくて斜めに張ることで、思わず目がいくアイコンみたいになるんじゃないかなって考えました。
オーナー:ピンクをどこに入れるか、色のバランスはぼくの方で考えました。あの壁、ほんといろんなパターン考えたよね。
谷川:ヘリンボーンみたいなのもあったし。
-でも、正解ですよ。斜めに目がいきますもん。あと、ピンクってやっぱりかわいいんですよね。こういうの、本能的に「かわいい」と思っちゃいますもん。
オーナーがカウンターのなかの女の子に「ピンク好き?」ときくと、「好き。ピンクがいちばん好き」と、にっこり。
-ところで、家具も谷川建設さんのコーディネートなんですよね?
谷川:一から造作したのは2階のテーブルですね。この(1階の)テーブルは板を切って足つけただけ。椅子は旧市役所の譲渡品なんです。議員控室の。
-議員控室の椅子!ヴィンテージ(笑)
オーナー:これ、結構磨いたよな。
谷川:磨いた。錆で真っ黒やったし。
-よく譲渡品を使おうって思いつきましたね。
谷川:ちょうど譲渡会が開催されてたので、タイミングがよかったんです。
オーナー:「もらってくるわ!」って言ってたけど、何をもらってくるとは言ってなかったし。まさか議員控え室の椅子をもらってくるとは思わんかった(笑)
オーナー:インスピレーションって大事やからね。彼が「多分好きやろう」と思うことは実際好きやし、ぼくが嫌がることは絶対しないんです。
-オーナーの嫌なことって、どんなことですか?
谷川:にせもの感があるのは嫌いですよね。
オーナー:うん、フェイク嫌いやな。
谷川:cotoでは、伝統工芸品とかちゃんとした人の手でつくられたものを扱ってるんです。本物の雑貨を置くなら、空間も本物じゃないと嘘っぽく見える。だから、素材感とか表情は大切にしました。
オーナー:床も無垢だしね。カウンターの天板も一緒に選びに行ったし。
谷川:上質でシンプルであることが第一だと思います。見た目にノイズが出ないよう、要素は少なめで。
オーナー:ノイズ嫌うなぁ。クロスの継ぎ目とか苦手で。ノイズを出さないための解決策が、クロスを貼らずに壁を左官で塗ることでした。
-cotoとtuzuでは全然テイストが違いますよね。
谷川:tuzuの設計を始める少し前くらいから、自分の中でデザインとか作るものに対しての考え方が変わっていったんじゃないかと思います。
オーナー:もう一回cotoをつくるとしたら同じものにはならない。結構変わるよって言ってたね。
谷川:そのときにしかできない表現とか、思い浮かばないこともあるので。あとは自分が扱えるようになった素材とか仕上げの方法でも、結構変わってくるかと思います。
オーナー:今は真鍮がブームだよね。ここ1~2年くらい。君のなかにブームがきてるのが、見ててわかる。
谷川:そうね。あとは、ひたすら木をステインで塗るとか、鉄のパーツを作って組み込むとか。出来ることは増えていると思います。
途中コーヒーを淹れてもらいましたが、口あたりがよくて飲みやすい!
優しい色味と丸みを帯びたフォルムのマグカップは、cotoの売り物なのだとか。
谷川:(カップを手に取って)早い段階でこれを見ていたから、内装の色もこのイメージで。
-cotoの柱と筋かい、赤色に塗ってありましたよね。オーナーの髪も赤色ですけど、赤がお好きなんですか?
オーナー:はい。あれ本物の漆なんです。
-え?漆の朱色?
オーナー:あのとき谷川くん、漆ブームきてたよな。
谷川:結局自分では塗れなくて、ペンキ屋さんにお願いしたけど。
オーナー:あれ、ペンキ屋さんに頼んだのは下地だけやったやろ?「下地塗ったからな」っていわれて、漆は自分で塗ってたで。
谷川:そやったかな。もう忘れた(笑)
-ところで、メインターゲットの若い女性は結構来られますか?
オーナー:来られますね。cotoは町の喫茶店になりたくて、実際、年配の方が多いんですけど、実はtuzuも年配のお客さんが結構来る。近所に住む人が来てくれて、気に入って、お友だち連れて来てくれて。で、そのお友だちが通ってくれて。
気付いたら、年齢層はかなり幅広いです。
ちなみに、2階は谷川さんがすべての権限を与えられ、自由にデザインしたとの事。
半個室の4人席で、ホワイトボードが設置されており、ちょっとしたミーティングやワークスペースとしても利用可能です。
ユーズドな風合いを出したホワイトとミッドナイトブルーの組み合わせ、なかなか評判いいようですよ。
こうしてオーナーの話をお聞きしている間にも、若い男の子のふたり連れや年配の男性がコーヒーを飲みに訪れていました。
実はピンク色って、女性受けするだけではない、すごいポテンシャルを秘めているのかも?
インタビューの合間には、「ちょっとスタッフ自慢していい?」と、オーナーがスタッフさんのつくったラテアートを私たちに見せてくれる場面も。
その日お店に出ていたケーキはすべてオーナー作。タルトは調子に乗ったときだけ作るそうです。
とても優しくて、とても素敵なお店【tuzu】。みなさんもぜひ、おっさんふたりが試行錯誤した「かわいい」と美味しいコーヒーを味わいに訪れてみてください。